RI内用療法(核医学治療)
RI(放射性同位元素)内用療法とは
放射線治療の一種であり、放射線を放出する薬剤(RI)を注射し、薬剤の体内挙動により目的とする臓器(病変)に集積したところから、病変を放射線で照射する治療法です。当センターでは、がんの骨転移に対するRI内用療法を行っております。
がんの骨への転移は、進行がんの患者様の多くに見られ、脊髄圧迫や病的骨折により激しい痛みを伴う場合があります。がんの骨転移による疼痛の発生機序は、まだ十分に解明されていませんが、以下のような要因が関与していると考えられています。


有痛性の骨転移の疼痛緩和治療には、鎮痛薬による治療、放射線治療(外照射療法、放射性同位元素内用療法)、外科療法、化学療法、ホルモン療法及びビスホスホネート療法などがありますが、ここでは、当センター放射線科で行われている放射性同位元素内用療法(RI内用療法)について紹介します。
1. Sr-89(塩化ストロンチウム)商品名:メタストロン
2. Ra-223(塩化ラジウム)商品名:ゾーフィゴ
上記2種類のRI(放射性同位元素)は、骨の成分であるカルシウムと同じように骨に集まりやすい性質を持っているため、がんの骨転移の治療に適しています。これらのRI薬剤を注射し体内に送られると、代謝が活発になっている骨転移病巣に集まり、それぞれのRIから放出される放射線エネルギーにより、転移病巣を局所的に照射します。ストロンチウム-89は主にベータ線を放出し、ラジウム-223は主にアルファ線を放出するRIであり、それぞれ、エネルギーは強いのですが、物質を透過する力は弱く、患者様の体内から体外へ放出される放射線はごくわずかとなります。特に、RI検査である骨シンチグラフィにおいて、疼痛に一致した部位にRI集積が多い場合に、ストロンチウム-89もラジウム-223も集積が多くなる傾向にあります。
両薬剤ともに外来治療での静脈投与が可能で、比較的長期間にわたって鎮痛効果が得られると言われています。反復投与についても、それぞれ投与の間隔は決められています。また、投与後3~5日後に一時的に疼痛が強くなることがあるという報告もあります。
- 2007年に承認されており、β線(ベータ線)を放出するストロンチウム-89を含んでいます。
- 固定癌に係る多発性骨転移における疼痛緩和に特に有効であり、疼痛緩和・鎮痛剤減量効果があります。
- 反復投与の場合は、前回投与から少なくとも3ヶ月は開ける必要があります。
【主な適応患者選択基準】
- 骨シンチで疼痛に一致する部位に集積増加がある場合
- 骨転移以外に起因する疼痛(骨折、脊髄圧迫、腫瘍の骨外浸潤等)がないこと
- 非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)やオピオイドなどの鎮痛薬で不十分な有痛性骨転移の場合
- 十分な血液学的機能を有すること
- 他の方法による治療中で、問題となる骨髄抑制がないこと
- 外部放射線治療が困難な場合、など
- 2016年に承認されており、α線(アルファ線)を放出するラジウム-223を含んでいます。
- 適応症は「骨転移のある去勢抵抗性前立腺癌」のみであり、抗悪性腫瘍剤(抗がん剤)としての効果もあります。
- 投与の間隔は4週間に1回投与で、最大6回の治療が可能です。
去勢抵抗性前立腺癌と骨転移について
前立腺癌は、世界の男性における癌の中で 2番目に多く、現在日本でも増加しています。
日本人男性における患者数は、胃癌、肺癌に続き3番目に多いと推定されています。前立腺は男性ホルモンに依存した臓器ですので、前立腺癌の手術または放射線治療に続く薬物療法においては、内分泌療法が第一選択となります。
男性ホルモンの分泌や作用を抑制する内分泌療法は、ほとんどの前立腺癌に対して奏効しますが、数年後には抵抗性が生じます。この状態を去勢抵抗性前立腺癌と呼び、転移性の去勢抵抗性前立腺癌の患者様のおよそ 10人に9人(90%)が骨転移を有すると言われ、このことが患者様における身体障害や死亡のリスクを増加させることとなります。したがって、早期に骨転移を診断し、効果の高い治療を行うことが非常に重要となります。
*なお、これらの放射性同位元素内用療法には、放射性医薬品の使用量の制限及び専門医による適切な管理が必要となりますので、詳細については放射線科へお問い合わせください。